LOGINカフェを出た僕達は、真っ直ぐアパートへと向かった。その間も、竜希は当然のように愛をささやいてくる。聞いているこちらが恥ずかしくなるくらいの甘い台詞だ。でも、うれしすぎて自然ににやけてしまう。
「もうわかったから、やめろって」
「嫌だね。俺がどれだけ佳晴さんを愛してるか、ちゃんと理解してもらわなきゃ」
「理解してるから。変に嫉妬して、悪かったよ」
「別に、それはいいよ。俺だって、嫉妬してもらえるのはうれしいからさ。でも、俺にはあんたしかいないの。他の奴なんかどうでもよくなるくらい、佳晴さんに惚れてるの。もう、あんたなしじゃ、生きられねえんだよ」
ねっとりと告げる竜希の言葉に、僕の体は熱くなり、自身は股布を押し上げるほど主張している。
(まったく、運転中なのにな……)
僕は、軽く息をついた。
早く彼に触れたい、抱きしめたい。焦燥感にも似た思いが込み上げ、ハンドルを握る手に力が入る。もちろん、安全運転は心がけているけれど。
「なあ、竜
「ぁ……ごめん、汚しちゃった」僕は、荒い息のまま謝罪する。僕の足先の床に、白濁の液体が水溜りのように広がっている。「あぁ、別にいいよ。後で掃除するから。それよりさ、ベッド行こうぜ」「あぇ……ベッド?」「あんたのかわいい顔見ながら、イきたい。いいだろ?」竜希は、そうささやいて僕の耳たぶを甘噛みする。「ん……っ! ぁ……少しだけ、じゃなかった?」「満足させてくれって言ったのは、あんただぜ?」くつくつと笑う竜希は、僕から自身を抜いた。「ひぅ……」ずるりと引き抜かれる感触に、思わず声が出てしまった。「こんなんじゃ、まだ足りねえだろ?」妖艶に告げる竜希に、僕は無言でうなずいた。「だよな。おいで」彼にうながされてベッドに向かうと、優しく押し倒された。「佳晴さん、かわいい。ずっと、俺だけ見てて」竜希はそう言うと、僕の返事を待たずにキスをした。優しく甘く温かいキスに、ゆっくり溶けてしまいそうだ。(僕だけ見てて、竜希……)独占欲にも似た感情が、胸の中に溢れてくる。息が苦しくなるのも構わずに、僕達は貪るようにキスをする。呼吸の一つ、唾液の一滴さえも逃したくないくらいに夢中になっていた。「んぁ……」甘くとろけた吐息が漏れた。舌もしびれている。(このまま、キスしていたい……)ぼんやりとそんな事を思っていると、竜希の唇がふっと離れた。名残惜しくて目を開けると、竜希は瞳をギラつかせていた。本能むき出しの姿に雄を感じて、心臓が跳ねる。同時に、僕自身が硬く反り勃ち、腹の奥が疼いた。「た、つき……」もたつく
注文していたピザが届くと、僕達はいつものように向かい合って食卓を囲んだ。僕の前にはアスパラとベーコンとコーンが乗ったピザが、竜希の前にはペパロニがたくさん乗ったピザが置かれている。いただきますと言って食べ始める。シャキシャキとしたアスパラの食感とベーコンの塩気、それにコーンの甘味がちょうどいい。「佳晴さんのも美味そうだな。一切れちょうだい」「いいよ。そっちの、一切れもらっても?」「もちろん」と、互いのピザの一切れを交換する。もらったピザを一口食べると、ペパロニ独特の肉の味とチーズのコクが口の中いっぱいに広がった。「これも美味しいな」「だろ? 一番好きなピザなんだよね。こっちはどうかな、と。……美味い! これ、好きだ」アスパラベーコンのピザを一口食べると、竜希の顔に満面の笑みが咲いた。「よかった、気に入ってもらえて。このピザ、僕のお気に入りなんだ」「じゃあ、よく頼むんだ?」「うん。たまに、別のを選ぶけどね。期間限定のとか、クアトロフォルマッジとか。でも、結局これに戻っちゃうんだよね」「ああ、それは確かにわかるかも。食い飽きない味だもんな、これ」言いながら、竜希はその一切れを頬張る。そんな彼を見て、ほっとすると同時に笑みがこぼれた。誰かと好きな味を共有できることが、とてもうれしい。それに、自宅で食べるピザよりも、格段に美味しい気がする。(これも、竜希と一緒だからかな)なんて、自然と彼に視線が行く。「どうしたの? そんなに見つめてくれちゃって。もしかして、もう一切れ欲しい?」小首をかしげて、竜希は自分のピザを指さした。「違うよ。竜希と一緒だから、ピザが美味しいなって思っただけ」僕は、わずかの逡巡、思ったままを伝えた。「……そっか。それなら、よかったよ」と、竜希はにやりと口角を上げる。けれど、爽やかな笑顔とも妖艶なそれとも違う。少しだけ、揶揄いが含まれているような感じがした。
カフェを出た僕達は、真っ直ぐアパートへと向かった。その間も、竜希は当然のように愛をささやいてくる。聞いているこちらが恥ずかしくなるくらいの甘い台詞だ。でも、うれしすぎて自然ににやけてしまう。「もうわかったから、やめろって」「嫌だね。俺がどれだけ佳晴さんを愛してるか、ちゃんと理解してもらわなきゃ」「理解してるから。変に嫉妬して、悪かったよ」「別に、それはいいよ。俺だって、嫉妬してもらえるのはうれしいからさ。でも、俺にはあんたしかいないの。他の奴なんかどうでもよくなるくらい、佳晴さんに惚れてるの。もう、あんたなしじゃ、生きられねえんだよ」ねっとりと告げる竜希の言葉に、僕の体は熱くなり、自身は股布を押し上げるほど主張している。(まったく、運転中なのにな……)僕は、軽く息をついた。早く彼に触れたい、抱きしめたい。焦燥感にも似た思いが込み上げ、ハンドルを握る手に力が入る。もちろん、安全運転は心がけているけれど。「なあ、竜希?」「ん? 何?」「どうして、そんなに僕を口説いてるんだ? もう堕ちてるのに」「さあ? どうしてだろうな?」他人事のように竜希が言った。ちらりと見た横顔には、困ったような笑顔が浮かんでいる。「まあでも、俺があんたに伝えたいだけだから。そんなに、重く考えなくていいんじゃねえの?」明るい口調で問いかける竜希。確かに、深刻に受け止めなくてもいいのかもしれない。「そうだな。竜希が僕を好いてくれてるんだから、それでいいか」「おう。で? 佳晴さんは?」「え、僕?」「そう。俺の事、好き?」「もちろん好きだよ。貴方の隣を、誰にも渡したくないくらいにはね」平然と言ってのける。でも、内心は、顔から火が出るほど恥ずかしかった。今まで、こんな台詞を言った事なんて一度だってなかった。なのに、竜希が相手だと、言葉が自然と溢れてくる。僕にとって、彼はすでに特別な存在になっていた。
売店に戻ると、竜希に話しかけているらしい二人組の女性が目についた。(もしかして、逆ナンされてる?)胸の中に黒いものが広がる。同時に、指先が冷えていく。気持ちを落ち着かせるように、一度ゆっくり息を吐いた。「お待たせ」と、明るく竜希に声をかけた。「あ、佳晴さん」竜希は、助かったとばかりに顔をほころばせる。「僕の連れに、何かご用ですか?」女性陣に優しくたずねる。もちろん、笑顔を保ったままだ。「あ、いえ……おしゃれでかっこいい方だから、ちょっとお話を聞きたくて」と、ショートカットの女性が臆面もなく話す。「……あっ!」僕が口を開こうとした瞬間、もう一人の女性が声を上げた。見ると、トイレ前でぶつかりそうになった小柄な女性だった。「あぁ……先ほどは、すみませんでした」「いえ、私の方こそ、ちゃんと見てなかったので」「あれ? 佳晴さんの知り合い?」竜希が小首をかしげる。「いや、さっき、ぶつかりそうになってな」事実を端的に告げる。「あの! もしよかったら、この後、食事とかどうですか? 何か、お詫びしたくて」小柄な女性は、申し訳なさそうに告げる。実際にぶつかったわけではないから、そんなに気を遣わなくていいのだけれど。「すみません、お気持ちだけいただきます。僕達、デート中なので、これで失礼しますね」にこやかに、でもきっぱりと言うと、僕は竜希を連れてその場を離れた。科学館を出るまで、僕達は無言だった。竜希は、何となく気まずくて黙っているだけなのかもしれない。でも、僕の場合は違った。心の中に渦巻く黒い感情に、囚われていた。「佳晴さん」竜希に呼ばれたけれど、答えずに車へと向かう。「おい、待てよ。佳晴さん!」彼が何を言いたいのか、何となく分かるよ
デート当日、僕はアラームが鳴る前に目が覚めた。「……楽しみにしすぎだろ」と、自分に呆れる。でも、浮足立っているのは事実だ。(さてと。何を着て行こうかな?)なんて、恋する乙女みたいなことを考える。あれでもないこれでもないと悩み、ようやく服が決まった時には、起きてから三十分ほど経っていた。内心、焦りながら身支度を整える。ちょうど準備が整ったところで、呼び鈴が鳴った。玄関を開けると、竜希が立っていた。相変わらずかっこよく決めていて、胸元には銃弾のネックレスが揺れている。「おはよう、佳晴さん」「おはよう。約束の時間より、ちょっと早いんじゃないか?」自分の事は棚に上げて、竜希にたずねる。スマホの画面をちらりと見ると、約束の時間より十五分も早い。「あんたに、早く会いたかったから」竜希は、爽やかな笑顔で、恥ずかしげもなく答える。「――っ! それは、うれしいけど……」顔が熱い。竜希の顔をまともに見られない。「照れてる佳晴さん、かわいい。とりあえず、飯食いに行こうぜ」僕はうなずいて、彼とともに家を出る。迷わず自分の車へ向かうと、「佳晴さん? 今日は、俺が車出すよ?」途中で立ち止まった竜希が、車の鍵を見せて言った。僕は首を横に振って、運転したい気分だからと告げる。そういう事ならと、竜希は快くうなずいてくれた。車に乗り込んで、どこへ行こうかと話し合う。「んー、そうだな……ファミレスでいいんじゃね?」「じゃあ、プラネタリウム近くで、ファミレス探そうか」そう言って、プラネタリウムがある科学館近くへと車を走らせる。しばらく運転すると、馴染みのあるファミレスのチェーン店が見えてきた。駐車場に車を止め、店内に入る。昼時ともあって、明るい店内は賑やかだった。空いている席に座り、料理を注文する。しばらくす
「んぅ……ふ……」頭の芯が甘くしびれ、吐息が漏れる。いつもなら、このまま押し倒され、体を重ねる流れだ。でも、押し倒される気配はおろか、肌を滑る指の感触さえない。(まだ、しないのかな?)少し残念に思ってしまった。「……それじゃあ、いつ行こうか?」僕から離れると、竜希は何事もなかったかのように聞いた。「ぁ……えっと……」頭がぼうっとして、上手く働かない。そんな事よりも、もっと触れてほしくて竜希を見つめる。「ん? どうしたの?」妖艶な笑みを浮かべる彼に、じれったさを覚えた。「……したい」視線をはずして、ぽつりとつぶやく。思ったよりも拗ねた言い方になってしまった。「んー? 何をしたいのかな?」にまにまと煽る竜希に、「……もう! エッチしたいって言ってるんだよ!」噛みつくように言った。満足そうに笑う竜希。何だか、彼の思惑通りに動かされたような気がしてならない。「まだ決めてない事あるけど、いいの?」「よくない、けど……」ごにょごにょと口ごもる。キスをしたせいで、体が火照ってしかたがない。「なら、決めちまおうぜ。全部終わってからなら、抱いてやるよ」甘やかな誘惑に、僕は無言でうなずいた。深呼吸をして、湧き上がる欲望をなだめる。思考を一旦クリアにして、パソコンの画面に視線を戻した。プラネタリウム施設の開館日を確認する。「あれ? 月曜、休みなんだ?」隣にいる竜希が、残念そうにつぶやく。「そうみたいだね。もしかして、休み取るの難しい?」難しいなら自分がと言いかけるけれど、竜希は首を横に振った。「ああ、それは
脳内に浮かぶ彼の指使いに合わせながら、僕は自身に指を這わせる。優しくなで、時に激しく上下させる。自分で触れているはずなのに、彼に触れられているように感じた。錯覚なのは、わかっている。けれど、彼に出会う前の自慰よりも快楽を感じていた。何度目かの絶頂の後、僕は荒い息のまま脱衣所に向かった。収まることを知らない下半身の疼きから、解放されたかった。肌に擦れる布の感触が、完全には引いていない熱を呼び戻す。敏感すぎる感覚を恨めしく思いながら、僕は服を脱いで風呂場に入った。熱いシャワーを頭から浴びていると、体内に残っている衝動がゆっくりと鎮まるのを感じた
カフェに到着した僕達は、店内の奥にある席を選んだ。周囲に他の客の姿はなく、相談事をするにはうってつけだった。とはいえ、本当に彼女に相沢さんとの事を話してしまっていいのかどうか、今更ながらに悩んでしまう。注文を取りに来た店員に、理沙さんは紅茶とイチゴのパフェを、僕はコーヒーをそれぞれ注文する。「……それで、相馬さんは、何を悩んでるんです?」店員の気配がなくなってから、理沙さんがたずねた。「それは……」口ごもる僕に、理沙さんは肩をすくめて、「まあ大方、相沢先輩との事なんだろうけど」
よそよそしい彼の作り笑いが、仕事中も脳裏にこびりついて離れない。忘れようとして、ジムで汗を流す。けれど、彼の低く甘い声が、耳の奥にこだまして、忘れさせてくれない。自宅に帰ってからも、彼の幻影は消えてはくれなかった。『佳晴さん』ふいに、彼の甘えるような声音が蘇る。「……っ!」劣情を抱えた僕は、窄まりにも手を伸ばす。彼の手つきを再現するように動かすけれど、どこか物足りない。「相沢、さんっ……!」僕は、少し強引に欲望を吐き出す。すっきりしたはず
意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。(ここ……どこだ?)知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。「痛っ……!」頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。「……は?」布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。あり得ないことに、僕